境界―boundary―①自分の輪郭
誰にでも「ここからは私の領域。土足で踏み込まれたくない」というラインがあります。
境界(boundary)は、「私を他の誰ともちがう独立した存在としてかたちづくり、他者の侵害を許さない」領域、「自分らしさ」をかたちづくる自分の輪郭です。
境界には、身体の境界、感情の境界、責任の境界などがあり、さまざまな領域にわたります。
知らない人が、体が触れそうなほど近づいてきたらどんな気持ちになりますか?
それ以上近づかれると落ち着かない、自分の同意なしに体に触れて欲しくない…。これは身体の境界の問題です。
感情の境界はどうでしょう?落ち込んでいたり腹が立っている時に、周りから「落ち込む(怒る)ほどのことじゃないよ」と言われてその気持ちを押さえ込んでしまうと、後でつらくなります。
感情は感じているその人のもので、こう感じるべきだ、感じるべきではないと他人から指図されたり、コントロールされていいものではないのです。
責任の境界もとても大切です。日ごろの生活のなかで、何が誰の責任なのかを考えて行動しているでしょうか?
頼ってくる相手にノーと言えずに、本来は相手が負うべき責任を肩代わりし過ぎると、怒りがつのってきます。
それとは逆に、相手に対して「何とかしてあげなくては」という思いから世話を焼き過ぎることが相手の負担になることもあるでしょう。
そして、相手が不機嫌だと自分の責任のように感じることも責任の境界にかかわることです。
自分がどうしたいか、どういう気持ちなのか、何が大切かということよりも、相手の期待や感情、あるいは社会の価値観(「こういう時にはこうするべき」)を優先して自分の行動を決めていると、「自分らしさ」や「自分の輪郭」があいまいになってきます。
これは境界を持てず、自分を大切にできていない状態です。
また、すごく苦しいのに「私は大丈夫。助けはいらない」という態度をとる。くたくたなのに、休まずにがんばり続ける。
だれかに怒っている気持ちを必死でおさえこんで、平気を装う。心を閉ざしているのに誰にでも愛想よく親しげにふるまう…。
自分の感情にそぐわない行動を続けていると、だんだんつらくなっていきます。
そんな自分に優しくできずに、自分を責めてしまったり、自分の本当の姿をいつか誰かに見破られるのではないかという不安が募るかも知れません。
感情を押さえ込むと、自分の欲求や感情が分からなくなくなり、自分がどんな人間なのかもつかみづらくなります。
その状態が続くと、自分の中に怒りや悲しみといったネガティブな感情が積み重なってしまいます。我慢し続けて、とうとうキレてしまったり、過労で倒れてしまったり、酷く落ち込んでしまったりするかも知れません。
それは自分の内側からSOSが出ているサインです。自分がつらくなるほど無理をしていないか、自分の外側の基準に合わせ過ぎていないかをみていくことは大切です。
境界はまた、人との安全でここちいい距離を教えてくれるものでもあります。
プライベートに土足で踏み込んでくる人や、決めつけや否定ばかりしてくる人、こちらの話を聞かないで一方的に要求を通そうとしてくる人、自分の思うようにならないと攻撃的になる人からは、自分を守る必要があります。
そういう人といるとどんな気持ちになるでしょう。不快になる、不安になる、緊張する、怖くなる、落ち込む…。それは自然な、あたりまえの感情です。
「そんなふうに感じてはいけない」と我慢する必要はありません。そんな時には、相手に「ノー」と言っても、相手と物理的にも心理的にも距離をおいてもいいのです。自分を大切にしましょう。
私たちは状況に応じて、相手によって、どうしたいのか、何を優先するのか、どこまでするのかを決めています。そのときに決め手になるのは「感情」です。
何かを頼まれた瞬間どんな気持ちになるか、その頼みごとを引き受けて怒りを抱え込むことにならないか、友人の愚痴を聞くことにうんざりしていないか、自分に向き合うのが不安だから相手の世話ばかりしていないか…。
境界をうまく持てない時にはその背景にある感情に目を向けると何かが見えてきます。
日々の一つひとつの出来事の中で、自分がいまどんな気持ちになっているかに気づくことで、自分のためのよりよい行動を決めやすくなり、相手とのよりよい距離感も取りやすくなります。
人と自分の間に安心できる距離を保つこと、自分の欲求や感情をいつわらないこと、責任を抱え込まないこと…境界を持つことは、心身の健康やその人らしさを大切にすることに直結しています。
そして、私を主語にした発信、自分も相手も大切にするコミュニケーションがしやすくなるのです。
人とコミュニケーションする時には、まずは、自分がどうしたいのか、自分にとって何が大切なのか、いまどういう気持ちなのかといった、「境界の内側」をはっきりさせて、それを相手に伝えていく必要があります。
そして、相手がどうしたいのか、どんな気持ちなのかも確認していきます。
その時には、自分の欲求と他者の欲求、自分の感情と他者の感情を区別したり、お互いの価値観を尊重しあったり、違いを認め合っていく必要もあります。
自分と自分以外の人の「境界」を意識して人とかかわることで、よりよいコミュニケーションが可能になるのです。
どんなことでも、自分はこんなふうにしたい、これはやりたくないという思いを大切にする。いやな感じやノーと言いたい気持ちを大切にする。
お互いに尊重し合える人、安全で安心できる人と親しい関係を育てていく…。日々の生活の中で、自分の「境界」を守っていきましょう。