愛着-attachment-③完全無欠の愛着関係はない。人の子育ては他の人に助けてもらうことを前提に成り立つ
これまでみてきたように、親と子どもの愛着関係のかたちが、その人の世界観、自己イメージを形成し、その後の思考や行動のパターン、対人関係、親密関係のひな形になります。
ですから、子どもにとって親(特定の養育者)との愛着関係がとても重要であることは間違いありません。
しかし、人間の場合、親に対して愛着を求める子ども時代はとても長く、親が「一貫性のある安定した愛着関係」をその長い期間を通じて維持するのは、ほんとうに骨の折れる仕事です。
ストレスフルなライフ・イベントは子育て中でも、かまわず起こりますし、親がそれに対処するのことに精一杯になり、一時的に子どもの愛着行動に応えることができないことは普通にありえます。
子育てに悩んだことのない人はいないですし、子育てをすることになって、自分の子ども時代のつらい記憶が活性化し、苦しくなることも少なくないのです。
また、子どもや親、あるいは双方が発達の問題を持っていて愛着関係に問題が生じることもあります。
ですから、人の子育ては、他の人に助けてもらうことを前提に成り立っていると考えることが大切です。
親が周囲の人たちから、心理的にも物質的にも、また情報面でも、どれくらい助けてもらえるかによって育児の質が決まってくるのです。
親が必要なサポートを受けることで、子どもに対して精神的に余裕を持って接することができるようになったり、自分にできないことを補ってもらったり、自分の時間を持てるようになることはとても大切です。
また、子育てのスキルについての情報を得ることで、必要であればカウンセリングを受けることで、生育環境の中で内面化した自分自身の愛着関係パターンを修正していくこともしやすくなります。
完璧な親に育てられた人などどこにもいません。「完全無欠の愛着関係」を経験して大人になった人はいないのです。健全な愛着関係とは「ほどほどに安定した愛着関係」なのです。
そして、人間が不完全な存在であることの中に、子どもの発達を促す重要な要素が含まれています。
親が子どものシグナルをとらえ損ねると、子どもは「そうじゃない!」「私が求めているのはこれ!」と再びシグナルを出さなければなりません。
親が自分のシグナルを正確にとらえてくれるまで働きかけて、最後には自分の望む応答を引き出すプロセスを通じて、子どもはフラストレーションに耐えて自己主張する力を育てていくことができます。
困難に直面しても最後には解決できたという自己効力感も培っていくことができます。
子どもは親の多少のミスを大目に見てくれる存在です。子どもが求めているのは完璧な親ではなく、自分のシグナルを受けとめようとする、間違ったらちゃんと謝る、失敗を修復する努力をする親です。
その姿が子どもに、人と人とのかかわりにおいて必要なこと、大切なことを伝えるのです。
そして、子育ての中で、親も子どもからいろいろなことを教わりながら、一緒に成長していくのです。
親(養育者)も誰かに支えられていいのです。
あなたは一人ではありません。悩んだ時には専門的なサポートを求めて下さい。
SOSを出していいのです。