眠れない夜の心理学 子どもを守るために

境界・感情・愛着・トラウマティックストレス・うつ・アディクション、認知行動療法…… 眠れない夜に綴ります。

感情②感情と脳とからだ

これまでみてきた理由によって、感情を押さえつけたり、見ないようにすることが習慣化していると、自分の気持ちが分からなくなることがあります。

 

何かあった時に「こんな時どう感じるべきなのか…」とつぶやいたことはないでしょうか。

 

また、ネガティブな感情を押さえつけていると、ポジティブな感情も押さえつけることになってしまい、生き生きした感情体験ができなくなってしまいます。

 

ネガティブな感情だけを自分から遠ざけることはできないのですが、ネガティブな感情を持った時に、それを否定せずに受けとめることは難しいものです。

 

ネガティブな感情、たとえば誰かに対して怒りの感情を持った時に、「怒るなんて大人気ない」「怒るなんて心が狭い」と考えて、何とか自分の怒りを収めようとした経験はないでしょうか。

 

そう考えることで容易に切り替えられるなら問題はないかも知れません。

 

しかし、なかなか切り替えることができずに、切り替えられないことで焦りや不安といった不快な感情まで抱え込むことになって、よけいに苦しくなっていく…そんな経験をしたことがない人はいないでしょう。

 

また、自分では押さえ込んだつもりでいた誰かに対する怒りが、何かのきっかけで再燃したり、怒りの矛先を別の人に向けてしまったり、衝動的で不適切な行動に転化してしまうこともよくあります。

 

なぜ、ネガティブな感情を意志の力で押さえ込むことが難しいのでしょう?

 

下の図を見てください。脳は、①大脳皮質と前頭前野、②情動や感情を司る大脳辺縁系、③生命維持を司る脳幹という3つの部位に分けられます。

 

 

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①の大脳皮質は、思考、衝動コントロール、新たな学習など理性を司る部位です。その中でも、前頭前野はさまざまな情報を統合する重要な器官です。

 

②の大脳辺縁系は、感覚情報を集め、ホルモン分泌や自律神経系の中枢でストレス反応にかかわる器官です。

 

そして、③の脳幹は、脊髄につながる器官で、呼吸や体温調整、心拍数、消化吸収などの身体調整、生命維持を司っています。

 

何らかの出来事をきっかけに、大脳辺縁系でネガティブな感情、たとえば「怒り」の感情が生じた瞬間に、ホルモン分泌や自律神経の中枢システムが脳幹にその情報を伝達します。

 

すると、自律神経系が呼吸を早め、心拍数や体温、血圧を上げ、筋肉を緊張させて、怒りの感情にマッチするように身体を「怒りモード」に切り替えるのです。

 

大脳辺縁系と脳幹は、どちらも人間が生命を維持するための本能的な自己防衛のシステムですから、その力は何よりも強力です。

 

怒りや恐怖といった感情が生じる状況では、私たちの脳は、理性や思考による判断を待たずに、自分を守るための行動を取ろうと身体がただちに反応するのです。

従って、大脳皮質が、感情と身体の状態に抗して、「怒るなんて大人気ない」「怒るなんて心が狭い」と自分を責め立てたところで、とうてい太刀打ちできないのです。

 

つまり、感情を「いい悪い」で価値判断し、押さえ込もうとする試みは、脳内に葛藤を生じさせ、ネガティブな感情を増幅させて、長引かせるだけなのです。ではどうすればいいのでしょう。

 

どんな感情に対しても、「自分はいまこう感じているなあ」と、価値判断しないでそのままを受けとめることによって、脳内の葛藤が解消されていき、神経システムに変化が生じて、感情も身体の状態も「平常モード」に戻り、落ち着きを感じることができるようになるのです。

 

「こう感じてはいけない」「切り替えないといけない」と自分に言い聞かせるいつものパターンを、「こう感じている」とそのまま受けとめるパターンに転換していくことで変化が生まれるのです。

 

私たちにとって、感じることは自己防衛のために体に備わった機能です。

 

感じること自体が問題なのではなく、感情を見ないようにしたり、感情に飲みこまれて、シグナルとして使えないことが問題で、これは、前述した「ダメダメ教育」や「『らしさ』のフィルター」の結果だと言えます。

 

私たちは、「怒ってもいいよ。でも、叩くかわりにこんなふうにしようね」という教育を受けないで育ちました。

 

そして、「らしさ」のフィルターを通すことで、感情を価値判断することに慣れ親しんでいます。自分の感情とうまく付き合えなくても当然です。学び直すのはいつからでもできるのです。

 

そして、大切なのは、「感じることと行動することを区別する」ことです。

 

私たちは、怒りを感じること自体をダメと考えがちですが、実は「感情にいい悪いはない」のです。

 

同じように怒りを感じても、ある人は相手に暴言を吐き、別の人は「そういうことをするのはやめてください」と相手に伝える、というふうに、その感情をどのように外に向かって表現するかは人によって違うからです。

 

たとえば、誰かを「妬む」という感情を無意識に抑圧すると、それをシグナルとして使うことはできません。

 

自分が相手を「妬んでいる」という自覚のないまま、もっともらしい理由をつけて相手の足をひっぱるような行動に出るかもしれません。

 

自分の「妬み」の感情をごまかさずに受けとめることができれば、自分が生活のなかで我慢していることや、不満足なことがあると気づいて、自分のために行動することが可能になります。

 

感情次第なのではなく、自分次第なのです。

 

ネガティブな感情も「悪者扱い」せずに、「こう感じている」とそのまま受けとめることで、私たちは自分自身を受け入れることができるようになり、自分も人も大切にするよりよい行動を選択することが可能になります。

 

自分のペースで、自分に対して思いやりを持って、自分の感情と付き合っていきましょう。