眠れない夜の心理学 子どもを守るために

境界・感情・愛着・トラウマティックストレス・うつ・アディクション、認知行動療法…… 眠れない夜に綴ります。

愛着-attachment-②子どもの心身の発達と成長

<愛着関係と子どもの心身の発達>

 

自分にとって最重要な他者である親(養育者)が、自分の欲求に一貫して応えてくれる経験によって、子どもは何を得るのでしょう。そして、愛着関係は、子どもの心身の発達にどうかかわっているのでしょう。

 

まずは、他者を信頼する感覚、自分をとりまく世界を信頼する感覚(基本的信頼感)、そして、「自分は守られ愛される存在だ」「自分には価値がある」という自己信頼、自己尊重感(self-esteem)の獲得です。

 

自他への信頼、自分をとりまく世界への基本的信頼は、人が生きていく上で非常に重要な感覚です。

 

そして、「自分の愛着行動に親が反応することによって、不快感や不安感が調節されて、元のここちいい安心できる状態に回復する」経験は、「自分には状況に応じて必要な行動をとって、よりよい結果を出せる」という自己効力感(self-efficacy)の土台を作ります。

 

子どもの心身の発達は、脳や体の神経システムが整っていくプロセスでもあります。子どもの感情に対して、親が適切に反応することによって、生命を維持するための生体の防御反応が発達していきます。

 

乳児が泣いたら、抱き上げて背中をさすって眠りにみちびく、ストレスを感じた子どもがくっついてきたら抱きしめて安心させる…。

 

親がネガティブな感情を抱えた子どものSOSに、身体接触や言葉かけによって反応していくことで、子どもの脳内では、痛みや不快を和らげる鎮静物質が分泌され、体にかかっていた負荷(心拍数の上昇、呼吸の乱れ、筋肉の緊張、血圧の上昇など)が収束していき、心身が元の快適で、安心な状態に戻ります。

 

この経験が繰り返されることで、子どもの自律神経系の調節機能、情動・感情の調節、特にネガティブな感情に耐えてそれを調節する能力の基盤が作られるのです。

 

また、何かに驚いて逃げてきた子どもに「びっくりしたね~」と声をかけて、子どもが言いたいことを話せるように促すなど、親が子どもの年齢に応じて感情の言葉を投げかけていくことで、感情の社会化のプロセスもすすみます。

 

言語の発達、表現力やコミュニケーション能力の発達が促されるのです。

 

さらに、愛着行動に応える親の一貫した働きかけによって、子どもは「~したらこうなる」といった見通しや期待を持つこともできるようになります。

 

「何かあったらこうすれば大丈夫」「あの人のところにいけば大丈夫」「自分がこうすればママはこうする」「ここで待っていたら親が迎えに来てくれる」という見通しは、安心感に直結します。そして、少しの間待つ、少しの間ガマンするといった、ストレスに耐える力も徐々に育っていきます。

 

人生という未知の領域に踏み出すことは子どもにとってとてつもなく勇気がいることでしょう。安全性の見通しを立てることができるかどうかは、とても重要なことなのです。

 

<愛着行動と探索行動>

 

子どもの愛着行動は成長に伴って変化します。愛着行動のかたちも変わるので、親の側もそれに応じた対応が必要になります。

 

自分からは親にくっついていけず、親の関心を引き出して世話をしてもらう時期、自分から親にくっついて行って安心感を得る時期を経て、子どもは「何かあれば自分を守ってくれる」という見通しを持てるようになり、自分を守ってくれる親のまなざしを内在化していきます。

 

そして、少しずつ、親との身体接触がなくても、物理的に親と離れていても、安心して過ごすことができる時間が増えていきます。親が子どもを制御する他律の状態から、自分で自分を制御する自律の力をつけていくのです。

 

安定した愛着関係で得られる安心感と自律の感覚を土台にして、子どもは外の世界に飛び出して行きます。いつでもそこに逃げ込める「安全基地」を得た子どもは、安心して外の世界を探索することができます。

 

子どもは親に対して「自分を見ててね」とメッセージを送りながら、好奇心のままに周囲のものを見て、触れて、親以外の大人や子どもとさまざまな交流をします。

 

そして、探索する中で不意の事態(大きな音や知らない人など)にびっくりしたり、不安や恐怖を感じたり、転んで痛い思いをする、思い通りにならないことでストレスを感じるたびに親の姿を探し、安全基地に戻ります。

 

安全基地に戻って、親からなぐさめられて安心させてもらったり、そして必要があれば適切な介入をしてもらい、さらに探索するよう勇気づけてもらうことで、子どもは再び探索の旅に出ていきます。

 

愛着行動と探索行動を繰り返しながら、子どもは自分の世界をどんどん広げて行き、一人で行動する力をつけていきます。そして、次第に「安全基地」に逃げ込むことが少なくなっていくのです。

 

一貫性のある安定した愛着関係を経験した人は、自他への信頼、世界に対する基本的信頼感に基づいて物事を判断し、自律的な行動をすることができます。

 

そして、困った時には誰かに助けを求め、安全な人とそうでない人を見分け、安心できて安全で尊重し合うことのできる人間関係を求めます。

 

また、安定した愛着関係の中で培った、他者に共感し、他者と協力し合い、自分と自分以外の人の違いが生み出す葛藤や傷つきを抱え対処する能力は、その後の人生の中で出会う困難を乗り越える基盤になるのです。