眠れない夜の心理学 子どもを守るために

境界・感情・愛着・トラウマティックストレス・うつ・アディクション、認知行動療法…… 眠れない夜に綴ります。

愛着-attachment-①愛着行動ってどんなこと?どんな特徴があるの?

愛着とは、「特定の対象との情緒的な絆」のことです。それは、親(養育者)と子どもの相互関係によって形成される適応のかたちで、それ自体が人を動かす基本的な欲求です。

 

人とかかわり、親しさや安心感、安全を求め、呼びかけ合い応答し合うという関係性は、私たちが生きている間ずっと必要なものです。

 

愛着(アタッチメント)という概念を最初に提唱したのは、イギリスの児童心理学者ボウルヴィです。彼は愛着行動の特徴を次のようにまとめています。

 

特定性:一人あるいは少数の特定の個人に対し

     て向けられ、大方の場合明確な優先順

     位がある。

 

期間:通常ライフサイクルの大部分を通じて続

    く。青年期になると幼少時の愛着は弱ま

    り、新しい愛着行動によって補完される

    ようになるか、ある場合には新しい愛着

    によって代わられるようになるが、幼児

    期の愛着は簡単には放棄されず、いつま

    でも残っていくのがふつうである。

 

情動とのかかわり:強烈な情動体験の多くは愛

          着関係の形成、維持、中

          断、更新の際に起こる。

 

個体発生:自分の好む相手に対する愛着行動

      は、人間の子どもの場合、およそ生

      後9カ月の間に発達してくる。子ど

      もがある人物と社会的な交わりをも

      てばもつほど、その子はその人に愛

      着するようになる。

      このため誰であろうとその子のマザ

      ーリング(母性的養育)を主として

      担当しているものが、その子の主な

      愛着対象になっていくのである。

      愛着行動は3歳の終わり頃までは容

      易にひきおこされる状態にあるが、

      健全な発達を遂げている場合には、

      それ以後になると活発化することが

      徐々に少なくなっていく。

 

学習:よく親しんでいるものを見知らぬものか

    ら区別することを学習することこそ、愛

    着の発達の本質的過程にほかならない。

    愛着対象から繰り返し罰を与えられても

    愛着は発展していく。

 

機構:愛着行動の活発化を促す状況は、見慣れ

    なさ、空腹、疲労、驚きをもたらすもの

    である。愛着行動を鎮静させる状況は、

    母親を見たり、聞いたりすること、そし

    て特に母親との幸せな交流である。

    強い愛着行動の鎮静には、母親に触れた

    りしがみついたり、母親からの抱擁が必

    要である。反対に母親が一緒に居る時や

    どこに居るかよく分かっている時は、子

    どもは愛着行動を起こさず、むしろ周囲

    を探索する。

 

生物学的機能:愛着行動はほとんどすべての哺

        乳動物の幼年期に認められ、多

        くの種において一生を通じて残

        存する。未成熟な個体が自分の

        好む成熟した個体に接近する原

        則は変わらない。そしてこの

        とはこの行動が生存上の意義を

        持っていることを示している。

  

       (「ボウルヴィ母子関係入門」星和書店1981年より抜粋)

 

 

愛着行動は、子どもが親との関係性で情緒的な結びつきを形成して、生存のために必要な援助、心や身体の安定を確保するための本能的なものです。

 

つまり、愛着行動は、子どもが何らかの危機やストレスに直面した時、あるいはそれらを予感した時に起こる行動なのです。

 

赤ちゃんは、オムツがぬれて、おなかがすいて不快になると、泣いて生理的欲求を満たすよう親に訴えかけます。

 

親がその呼びかけに応えて、あやしながらミルクを飲ませる、オムツを替えることで、その子の生理的欲求は満たされて、身体的に不快で不安な状態から、心地良さや、安心を感じる状態に戻ります。

 

このように、特定の他者にシグナルを出すことによって相手の応答を引き出し、不快感、不安感、恐怖感などのネガティブな情動や感情を調節してもらうことが、愛着行動の重要な役割のひとつです。

 

赤ちゃんは、愛着行動があらわれる前から、周りにいる人に関心を向け、その表情をまねたり、周りの人の声に共鳴して、自分も声を出したり体の一部を動かしたりします。

 

子どもは、大人に対して受身なだけの存在ではなく、生きるために人とつながろうとする力を持ち、積極的に働きかけていく存在なのです。

 

愛着行動は、生後6カ月頃から2~3歳に多く見られると言われています。

 

ただ、発達のペースがゆっくりな子どもの場合には、「この時期にはこういう愛着行動がみられる」と言われる時期に愛着行動がみられない、もっと後になって愛着行動があらわれることがあります。

 

たとえば、あやしても無表情でアイコンタクトもしないとか、同じ年の他の子が後追いをしなくなる時期から、後追いをしてくるなどです。

 

また、大泣きしてるのを抱きしめてあげたら落ち着くといった定型的な対応がうまくいかないとか、身体接触を求めず触られるのを極端に嫌がる子どももいます。

 

親が、子どもの発達のペースには個人差があることや、発達にかたよりのある子の場合には、定型的な対応ではうまくいかない場合があるのを知ることは、子育てのストレスを軽減するためにもとても大切なことです。

 

その場合には、専門的なサポートを利用しながら子どもとかかわることで、少しずつ、子どもへの理解を深め、どのように愛着関係を築いていくのかを考えていくことができます。