眠れない夜の心理学 子どもを守るために

境界・感情・愛着・トラウマティックストレス・うつ・アディクション、認知行動療法…… 眠れない夜に綴ります。

認知行動療法ってどんなアプローチ?④セルフ・モニタリングってどんなスキル?

認知行動療法には「セルフ・モニタリング(自己観察)」というスキルがあります。

 

このスキルを使うと、何らかの出来事をめぐって自分が経験する「認知」「感情」「身体」「行動」を観察し、自分の習慣化したパターンを可視化することができます。

 

「観察できるものは、変化させることができる」のです。

 

認知行動療法では、人の「認知」や「行動」は、それまでの経験によって、学習したものだから、問題を生んだり、自己イメージを低めている「認知」や「行動」に気づき、「再学習」すれば、それを変えることができると考えます。

 

この場合の「気づく」とは、無意識に繰り返している「認知」や「行動」を意識化することです。人は、新たな枠組みを知ることではじめて、いままでとは違う視点で物事を見ることができます。

 

「自分の行動の背景には、こういう認知があるんだ」「身の周りで起こる出来事をそんなふうにとらえているから、いつもあんな行動をとっているんだ」と、認知行動療法の枠組みで「自分のパターンを観察」する。それがセルフ・モニタリングです。

 

例をあげましょう。

 

Aさんは、友だちから「自分のことをあまり話さない人」だと思われています。特に自分がいま興味があることや、やろうとしていることを人に話すのがとても苦手なのです。でも、自分がどうしてそうなのかはよく分かりません。

友だちに聞かれても、少しだけ話して、さっと話題を変えてしまうのです。「他の人のように、自分がしていることや考えていることを気楽に話せるようになりたい」「もっと友だちと親しくなりたい」と思い、認知行動療法をやってみることにしました。

 

Aさんがセルフ・モニタリングを行って、作成した認知行動モデルは以下の通りです。

 

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ここで想定しておいて欲しいことは、セルフ・モニタリングも、はじめのうちはうまくできないということです。この図の各項目について、一度に難なく記入できるわけではないのです。

 

たとえば、Aさんがこの図の中にすぐに書けたのは、次の部分でした。

 

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つまり、これらは、Aさんがその時点で意識化できていた部分です。

 

そして、以下は、はじめは書けなかった部分です。

 

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出来事に対する自分の「思考」と「感情」の区別がつかなかったり、何を考えていたのか、どんな感情を抱いているか、体がどうなっていたのか、改めて思い起こしてみても、よく分からなかったり、無意識に反射的に行っている「行動」を覚えていなかったり…。

 

自分を観察することは多くの人にとって慣れない事ですから、そうなって当然です。心配しないで下さい。根気強く取り組めば、少しづつできるようになります。

 

自分に何が起こっているのかを把握するために、認知システムの全体像を念頭に置きながら「セルフ・モニタリング」を続け、これまでは注目していなかった部分に目を向けていきます。

 

また、意識化できている部分からヒントをもらいながら、想像力を働かせて、少しづつ意識化していくことで、認知行動モデルの図が完成します。

 

たとえば、Aさんが、自分のことを話そうとすると、「いや~な気持ち」になるのは、話すことについてネガティブな意味づけをしているからだと考えられます。

 

ドキドキするだけではなく、「喉が詰まる」ということに気づいたら、それが話すことを制止しようとする体の反応ではないかという仮説を立てることもできます。

 

そして、いつからそういう状態なのか、その背景に何があるのかを探っていくことが役に立ちます。

 

たとえば、自分の成育環境を振り返ってみたところ、小学生の頃から「親がいつもAさんのやりたいことにケチをつけて、Aさんを否定していた」こと、Aさんが自分のやりたいことをするためには、それを親に見つからないようにしたり、親には言わずに行動する必要があったとしましょう。

 

それが分かれば、Aさんが「興味があることや、やろうとしていることを人に話せない」のは、自分のやりたいことをするため、そして、親に否定されて傷つかないための自己防衛の行動だったことが分かります。

 

Aさんに起こることは、そうやって対処し続けてきたことによって習慣化した思考や行動のパターンだったわけです。

 

また、「自分は人と親しくなれない人間だ」は人生の早期から慣れ親しんできたパターンが、友人関係にもらたしてきた「結果」の積み重ねによって、強化され定着した自己イメージ=「スキーマ」です。

 

これも「スキーマ」についての知識があれば、意識化することができます。

 

このようにして、認知行動モデルの図を完成させるのが、セルフ・モニタリングの方法のひとつです。

 

はじめのうちは、システムの全体像を視覚化して、図に記入していくことで「観察」しやすくなると思います。

 

慣れてくれば、書くことで視覚化しなくても、頭の中だけで「観察」し、全体像をとらえることができるようになります。

 

そして、すでに起こったことを振り返って観察することに慣れてくれば、リアルタイムで観察できるようにもなります。

 

「あ、いまこういう状態だ」と早く気づくことができれば、いつものパターンを保留して、新しい「行動」を試しやすくなるのです。

 

ここで注意が必要なのですが、観察しようとする思考や感情、身体反応があまりにも強烈な時には、セルフ・モニタリングは難しくなります。

 

たとえば、「死にたい」とか「死んでしまえ」などの思考、強烈な恐怖や不安、悲しみの感情やそれに伴う身体反応が生じる場合です。

 

その場合には、過去に経験したトラウマや喪失体験の記憶が活性化している可能性があるので、専門的なサポートを求めることが大切です。

 

強固な「スキーマ」やトラウマの影響、うつや不安の問題など、セルフ・モニタリングを難しくする要因をひとつひとつ探っていくプロセスに時間がかかることもあるでしょう。

 

時には途方にくれるかも知れません。必要なサポートを得ながら、自分のペースで休み休みやっていきましょう。