眠れない夜の心理学 子どもを守るために

境界・感情・愛着・トラウマティックストレス・うつ・アディクション、認知行動療法…… 眠れない夜に綴ります。

認知行動療法ってどんなアプローチ?③<自動思考>と<体系的な推論の誤り>と<スキーマ>はどんな関係?【後編】

アーロン・ベックは、何らかの出来事が起こる→「体系的な推論の誤り」が起動→「自動思考」が頭に浮かぶ→落ち込む、というプロセスで、個人がうつ状態に陥ることを、以下の認知モデルで説明しました。

 

「自動思考」は、瞬間的に頭に浮かび、自分にとっては「自然」で「正しく」「疑いようのない」ものなので、その多くが意識されないまま「いつもの思考パターン」が繰り返されています。

 

習慣化し慣れ親しんだパターンは、無意識の領域で起動しているプログラムなのです。

 

f:id:nemurenaiyoru3:20190815231224p:plain

 

 

”友だちが時計をちらっと見た”エピソードを、このモデルにあてはめるとこうなります。

 

f:id:nemurenaiyoru3:20190815231330p:plain

 

 

スキーマ>って何?

ここで、このエピソードの終わりに、慣れ親しんだパターンが繰り返され、前者が「それまでにも持っていた『私はつまらない人間だ』という、ネガティブな自己イメージがさらに強化される」という結果が生じたのを思い出してください。

 

実は、「自動思考」と「体系的な推論の誤り」に先んじるものとして、スキーマと言われる「人生早期から形成される、自分や他者、世界をどうとらえるのかを決定する信念」というものがあります。

 

"友だちが時計をちらっと見た”エピソードでは、それが「私はつまらない人間だ」にあたります。

 

つまり、「体系的な推論の誤り」「自動思考」の前に、個人がさまざまな経験にもとづいて内面化した「私はつまらない人間」という自分について信念があり→何らかの出来事が起こり→「体系的な推論の誤り」が起動して→「自動思考」が頭に浮かびます。

 

そして、いつもの思考パターン、行動パターンが繰り返され、自責感でいっぱいになり→落ち込む→信念(スキーマ)がますます強化され定着する、というプロセスです。

 

その場合、意識の上では「自分にはなぜいつもこんなことばかり起こるのか」「この状況を変えたい」と思っていても、そうしている自覚がないままに、慣れ親しんだプログラムに従って、いつもと同じ認知、感情を体験し、いつもと同じ行動をしているのです。

 

「いつもと同じ行動」をして「違う結果」を出すことは決してできないのです。

 

そのプロセスを、ベックの認知行動モデルに加えるとこのような図になります。

 

 

f:id:nemurenaiyoru3:20190815231452p:plain

 

 

人生の早期から形成される、自分や他者、世界をどうとらえるのかを決定する信念である「スキーマ」は、子ども時代の生育環境の中でその基盤が形成されます。

 

そして、個人が育つ社会の規範や主流の価値観がどのようなものであるかもスキーマ形成の大きな要素です。大人になってからの親密な関係、友人や知人との関わり、所属組織の中でのさまざまな経験もそこに加わります。

 

ネガティブな「スキーマ」を持つ人が何らかの出来事に反応して、「体系的な推論の誤り」が生じ、「自動思考」がパッと頭に浮かぶ。これは、さまざまな経験の中で「学習」し、習慣化したパターン(=思考のクセ)なのです。

多くの人が「これが自分の元々の本来の性格だ(変わらない)」と思っているものが、実際には「無意識に起動する思考のクセの集合体(変化が可能)」ということが多いのです。

 

習慣化したネガティブな思考や行動のパターンに気づき、変化を起こすためには、「自動思考」「体系的な推論の誤り」だけではなく、「スキーマ」についても知り、それらの関係性を理解する、つまり「認知システムの全体像」をとらえることが重要です。

 

私たちが、何らかの悩みを抱え続けたり、ネガティブな自己イメージに長い間悩まされる時、「認知」の修正が思うようにいかない時には、その根っこに、容易には変わらない強固な「スキーマ」の存在があるのです。